2023年5月19日 モビリティ業界注目ニュース
ここでは、世界中の自動車およびモビリティ市場におけるトレンドのニューストピックを紹介します。
自動車業界の興味深いニュースを3つ厳選し、この分野の最新動向をスピーディーに理解していただくために、情報を簡潔で分かりやすい形式で紹介していきます。海外メディア等からのニュースも取り上げて参ります。
― 今週の3選 ―
May 4, 2023
1.ソニー、ゲームエンジンをEV戦略の柱に
自動車事業の立ち上げを計画しているソニー・ホンダモビリティの社長兼最高執行責任者である川西泉氏は、電気自動車のエンジンはゲームエンジンになるだろうと言う。
ゲーム機「プレイステーション」のコンテンツ制作に使われるソフトウェア「アンリアルエンジン」を開発した米エピック・ゲームズ社は、ゲームエンジン最大手の一角を占め、ソニーはこのエピック・ゲームズ社に出資している。ソニーはこのエンジンを利用して、サッカーの試合を3Dで再現したり、メタバースで有名なアーティストが作ったアバターを使ってコンサートを世界中継したり、ゲームデザイン以外の市場に拡大している。
川西氏は、このゲームエンジンの次のターゲット市場として、自動車を考えている。ソニー・ホンダ・モビリティが2026年に展開する予定のEV「アフェーラ」では、ドライバーが見て、触れて、操作する車内の多くの部分にゲームエンジンを使ったインターフェースを採用する。
ゲームエンジンを使うことで、EVは現実空間とメタバースの融合となる。これにより、新しいエンターテインメントが生まれ、サブスクリプションビジネスの大きな収益源に成長すると同社は期待している。
自動車サプライヤーという概念が変わっていくのは間違いない。自動車ビジネスにおける企業の価値や収入源は、もはやハードウェアだけではなく、プログラマーやコンテンツ制作など、新しいサプライヤーの存在も大きくなっていくであろう。
また、業績を測る指標も多様化する。映画などのエンタテインメントコンテンツを販売するソニーは、月間アクティブユーザー数を重要な業績評価指標としている。ソフトウェアやネットワーク業界では、ユーザー1人当たりの平均売上高といった指標を重要視する企業もある。これらは、自動車産業においても重要な業績指標となるだろう。
最終的に、自動車産業は有形資産企業と無形資産企業に分かれる可能性もある。例えば日本では、トヨタが前者、ソニーやソニー・ホンダ・モビリティが後者の代表格になると思われる。
トヨタの有形資産は昨年12月末で約12兆円、無形資産はその1割程度に過ぎない。一方、ソニーは3月末時点で、のれんを含む無形資産が3.4兆円、有形資産が1.3兆円であったのに対し、無形資産は1.4兆円である。
ソニーは、ゲームエンジンをEV戦略の「柱」に据えることで、競争が激化するEV市場において、車両の差別化と消費者への魅力的な提案を目指す。
*image: Nikkei Asia
May 12, 2023
2.台湾の電池メーカーProLogium、フランスにEV電池工場を建設
台湾の電池メーカー輝能科技(プロロジウムテクノロジー)は、フランス北部ダンケルクでEV向け電池工場を建設すると発表した。2026年末に稼働開始し、数年かけて増産、約3,000人の直接雇用と12,000人の間接雇用が見込まれている。
2030年までに52億ユーロ(57億ドル)を投資し、フル稼働すれば数十万台の自動車に搭載されるバッテリーを生産する予定。
同グループは、電気自動車によく使われるリチウムイオン電池よりも強力で安全、かつ短時間で充電できるとされる「ソリッドステート」電池の開発を専門としている。
国際開発担当副社長のジル・ノーマンは、ソリッドステートバッテリーは約50kg軽量化され、それを搭載する車の性能に大きな違いをもたらすと述べている。
今回建設地をダンケルクに選定した理由として、北欧には多くの電気自動車工場があることや、鉄道、道路、高速道路、深海港へのアクセスを挙げている。
2006年に設立され、株主にメルセデス・ベンツが名を連ねるプロロジウムは、投資資金を調達するために将来的にIPOを計画しているほか、グリーン産業に対する欧州の優遇措置も模索していると述べた。
また、この地域ではすでに中国のEnvisionグループによるルノー工場でのプロジェクトや、フランスのバッテリー新興企業Verkorの工場など、3つのプロジェクトが発表されているという。
*Image: Reuters
May 12, 2023
3. EVは自動車修理業を衰退させる?
電気自動車(EV)の普及は、町の自動車整備工場や部品販売会社にとって脅威にも見えるが、まだ希望は残っている。
EV車はガソリン車と比べて、故障しやすい機械部品が少ない。エアクリーナーや不凍液、点火プラグ、オイル交換も不要である。
とはいえ、EV車は大量の熱を発生する電動モーターが複数あり、さらなる冷却部品が必要である。自動車用部品販売大手オライリー・オートモーティブのグレッグ・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は、EVとハイブリッド車は搭載されているセンサーの数がより多いため、部品そのものに対する需要が増えるだけでなく、整備工場が修理するのに必要な校正ツールへの需要も生み出すと、昨年のアナリスト会議で述べている。
また、EV車のバッテリーは重いため、一部の部品は消耗が一段と激しくなる。ある調査によると、EV所有者2022年のタイヤ修理率は、ガソリン車の所有者のそれを上回った。修理の回数も、ガソリン車よりも少ないかもしれないが、コスト自体は高くつく傾向がある。
EVへの移行が、今後修理関連ビジネスの衰退を招くかどうか、現段階では見通せない。全米自動車協会(AAA)では、EVがメーカーの推奨通りにメンテナンスされたと仮定すると、EVの保全・修理コストは年間949ドル(約13万円)で、ガソリン車よりも約330ドル少ないと分析している。だが、IMRのビル・トンプソン氏は、EVがまだ新しく、現時点で耐用年数に至っていないため、長期の実質コストを検証するのは時期尚早だと述べている。
トゥルイスト・セキュリティーズの株式アナリスト、スコット・シカレリ氏の分析によると、2030年までに新車販売の55%をEVが占めたとしても、米国では2億7000万台以上のガソリン車が残っている見通しである。さらに、走行を続ける老朽車の数は廃車率を上回るため、車両の絶対数は毎年増え続けるだろうとシカレリ氏は指摘する。
大手米自動車ディーラーはこのEV移行を商機とみている。ディーラーにとって、部品・保全サービスは重要な利益源だが、小規模な整備工場では複雑なEV車の修理に必要な知識を持たず、またそれに対応する資本も持たないため、整備工場のEV対応が追いつかなければ、修理ビジネスは自動車メーカーとその技術に近い自動車ディーラーへと回ってくるとみている。
*image : WSJ