探索的データ解析『EDA』と車載半導体 – データサイエンスが車載半導体にもたらす影響

近年、さまざまな分野で、データサイエンスを導入する例が増えています。そして、それは車載用半導体の分野でも例外ではありません。ここでは、ここではデータサイエンスの重要なテーマのひとつである探索的データ解析(EDA)について説明し、車載用半導体とEDAとの関係について解説しました。

1. 探索的データ解析(EDA)とデータサイエンス

探索的データ解析(EDA)とは

探索的データ解析(EDA:Exploratory Data Analysis)とは、「データ分析のプロセスの一部として、データセットを探索し理解するための手法やアプローチのこと」を指します。つまり、データを整理してそのデータを理解するための手法や考え方のことです。

このEDAは「データサイエンス」と呼ばれる分野の文脈の中で語られることが多いです。そして、近年このデータサイエンスの考え方や手法が様々な分野で導入されています。

探索的データ解析とデータサイエンス

それではデータサイエンスとは何でしょうか。データサイエンスとは「データを収集、解析し、洞察を得ることで問題を解決し、意思決定をサポートするための多様な技術、方法、プロセスの組み合わせ」と定義されます。

つまり、無秩序のデータ群から秩序を見出し、その秩序からデータの法則性を発見し、モデル化して、仮説を立て、それを検証・確認する一連のプロセスのことをいいます。そして、データサイエンスのプロセスは、無秩序なデータを整理し仮説やモデルを立てる段階と、その仮説を検証する段階の2段階に分かれます。

このうち、EDAは無秩序のデータから法則性を導き仮説を立てる段階のプロセスや手法を指します。これに対して、仮説を立てた後にその仮説の確認・検証を行う段階のプロセスや手法は確認的データ解析(CDA:Confirmatory Data Analysis)といいます。

Explain CDA vs EDA
探索的データ解析の手法の具体例

EDAの手法は様々なものがありますが、ここでは網羅的に概略のみを説明します。

・データの要約:

データの基本統計量を計算し、傾向とばらつきを理解する手法です。基本統計量には平均値、最頻値、中央値、分散などがあり、中学校や高校で習った基本的な統計解析の手法がこれに当たります。単純な考え方ですが、様々な高等的な手法の基礎となる考え方で、大変重要です。

・データの可視化:

グラフ、プロット、ヒストグラムなどの視覚的な手法を使用してデータを可視化し、パターンや外れ値を視覚的に特定します。これにより、感覚的にデータの傾向をつかむことができます。

・データの分布:

可視化したデータがどのように分布しているかを調査し、正規分布、一様分布、対数正規分布などを特定します。たとえば、生産工程で製品のデータを分布で表し、工程間の不具合を推定するといった用途に使われます。

・外れ値の検出:

データ群の異常値や外れ値を特定し、それらがデータ解析に与える影響を評価します。

・相関分析:

データ内の変数間の相関を調査し、変数間の関係性を理解します。グラフを使って分析する場合もります。代表的な手法に「多変量解析」などが挙げられます。また、「最小2乗近似」などもこの考え方を含んでいます。

・パターンの発見:

データ内のパターンやトレンドを探し、異なる要因がデータに影響を与えるかどうかを特定します。近年では機械学習(人工知能)を使う場合もあります。

・グループ分析:

データを異なるグループに分割し、各グループの特性を比較して異なるグループに分ける手法です。代表的なものに「クラスター分析」などがあり、近年では機械学習(人工知能)を使って効率化を行う場合もあります。

・欠損値の処理:

欠損値の存在を確認し、欠損値を補完するか、適切に処理する戦略を検討します。代表的なものに「最小2乗近似」や「主成分分析」などがあります。近年では機械学習(人工知能)を使う場合もあります。

データサイエンスの専門性

多くの場合、これらの処理は専用の統計処理ソフトが用意されており、昔のように「関数電卓」を使って手動で計算をするということはありませんが、これらのソフトを使いこなすにはそれなりの熟練を要し、専門性が必要となります。

そして、このようなデータサイエンスの考え方や手法を理解し、実際に活用できる人材は「データサイエンティスト」と呼ばれます。

なお、データサイエンティストは、あるビジネス雑誌で「21世紀で最も魅力的な職業」と紹介されたこともあり、現在、多くの企業で引く手あまたの状態です。

2. 探索的データ解析と半導体製造・開発の具体例

それでは、半導体製造・開発の分野でEDAがどのように使われているかを見ていきましょう。

・プロセス制御と品質管理:

EDAは製造プロセス中に収集されたデータを分析し、半導体デバイスの品質を確保するのに使用されます。

・設計と検証:

半導体デバイスの設計段階でEDAを使用して、回路の動作や性能をシミュレーションし、最適な設計を行うことができます。

・信頼性評価:

半導体デバイスの信頼性評価において、デバイスの寿命予測や信頼性向上のためのデータ解析に役立ちます。

・デバイス特性の最適化:

デバイス性能の最適化のためにEDAが使用されます。例えば、エネルギー効率、速度、信号ノイズ比などの特性を最適化するためのデータ分析が行われます。

・故障解析:

半導体デバイスが市場に出た後、故障データを収集・分析して、問題の原因を特定するのに使用されます。

・データの可視化:

半導体デバイスのデータを視覚化することにより、異常検出やデータのパターンの発見が容易になり、品質向上に貢献します。

3. 探索的データ解析と車載半導体デバイスのアプリケーション

それでは、車載半導体デバイスのアプリケーションとEDAのかかわりについて具体例を簡単に説明します。

自動車は高度な技術と安全性が求められるため、車載半導体デバイスを使用した自動車の制御は、データ駆動型アプローチ(データドリブンアプローチ)が特に重要です。このようなデータ駆動型のアプローチには発生するデータの傾向をつかむためにEDAの考え方が有効です。

また、人工知能の普及に伴って、EDAの処理を自動車の制御システムに組み込み、人手を介さずEDAの処理を自律的に行うことも考えられます。

♦ 具体例

・自動運転技術:

自動運転車には、車載半導体を使用した多くのセンサーと制御ユニットが必要になります。EDAはセンサーデータの解析や制御アルゴリズムの開発に使用され、自動運転技術の進化をサポートします。

・センサーやデバイスの信頼性と耐久性:

車内は、夏は非常に暑く、冬は非常に寒いです。また振動やホコリも多いなど、動作環境が厳しいです。そのため、車載センサーや車載半導体デバイスは、特に信頼性と耐久性が要求されます。そして、EDAはセンサーやデバイスの信頼性評価に使用されます。

・電力効率の向上:

HVやEVで電力プロファイルの解析と最適化にEDAが使用され、バッテリー寿命を延ばすのに役立ちます。

・自己診断と障害診断:

車載半導体デバイスは自己診断機能を持つことが求められます。EDAは障害診断のためのデータ解析を支援し、車載システムの安全性を高めます。

・データセキュリティ:

近年、自動車はネットワークに接続されており、セキュリティがより重要になっています。EDAはセキュリティの弱点を特定し、対策を講じるのに役立ちます。

つまり、EDAの考え方は自動車の分野でも様々シチュエーションで導入されています。それだけEDAやデータサイエンスの技術が自動車分野で求められているということでもあるのです。

4. まとめ

以上、探索的データ解析の概要と、半導体開発・応用、特に車載半導体との関係について解説しました。

探索的データ解析はデータサイエンスの主要なテーマですが、実際に活用するとなると、データサイエンスの基本的な考え方と、対象となる製品やサービスの知識、両方に精通している必要があります。そのため、この分野での専門家である「データサイエンティスト」の養成が社会的急務となっています。近年、文系学部の大学がこの分野の学部を相次いで設立しているのはこのためです。

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筆者:佐藤 文俊 監修:ターンポイントコンサルティングメディアチーム
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