2024年7月31日 【基本のキ】「MaaS」とは?|MaaSレベル・国内外の事例を基にモビリティの未来を考える
1.MaaSとは?
移動をもっと便利に、もっとスマートに。そんな革命的なサービスが今、世界中で注目を集めています。
その名も「MaaS(Mobility as a Service)」。
MaaSとは、様々な交通手段をスマートフォン1つで簡単に利用できるようにした新しいモビリティサービスです。バスや電車、タクシー、シェアサイクルなど、複数の移動手段を組み合わせて最適なルートを提案し、予約から決済までをシームレスに行えるのが特徴です。
従来のマイカーという概念や、それにまつわる交通サービスが「乗り物を所有する」ことを前提としていたのに対し、MaaSは「移動というサービスを利用する」という新しい概念を打ち出しています。まさに「移動の所有から利用へ」というパラダイムシフトを象徴するサービスと言えるでしょう。スマートフォン1つであらゆる移動がスムーズに、そして快適になる日が近い未来に迫ってきているということです。
MaaSが注目される理由
MaaSが注目を集める理由は、その巨大な市場規模にあります。従来の交通事業者だけでなく、IT企業、自動車メーカー、金融機関、エネルギー企業など、様々な業界からの参入が相次いでいます。
この背景には、MaaSが単なる交通サービスの進化にとどまらず、都市計画や環境問題、高齢化社会への対応など、様々な社会課題の解決につながる可能性を秘めていることがあります。例えば、マイカー依存からの脱却による環境負荷の低減や、高齢者の移動支援による社会参加の促進などが期待されています。
MaaSの成り立ち
MaaSという概念が生まれたきっかけは、持続可能な社会の実現を目指す動きでした。特に、フィンランドの首都ヘルシンキが策定した2050年の交通ビジョンが大きな影響を与えています。このビジョンでは、化石燃料に依存しない次世代の交通社会の実現を目指しており、その中心的な役割を担うのがMaaSだったのです。
実際、ヘルシンキでは「Whim」というMaaSアプリが導入され、公共交通の利用率が74%に増加したという成果が報告されています。これは、MaaSが単なる概念にとどまらず、実際に社会を変える力を持っていることを示しています。
MaaSの段階
MaaSのサービスレベルは、一般的に5段階に分類されます。
- レベル0:個々の交通サービスが独立して提供される段階
- レベル1:情報が統合され、ルート検索などが可能になる段階
- レベル2:サイト・アプリ上で予約、決済が一括で行える段階
- レベル3:上記のサービスがサブスクリプション型で提供される段階
- レベル4:社会全体の目標が統合された段階(※世界的にも未達成のレベル)
※日高他『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(2018)を参照に作成
現在、日本国内のMaaSサービスの多くはレベル1〜2の段階にあると言われています。一方で、欧米ではすでにレベル3のサービスも登場しており、今後さらなる進化が期待されています。
3.MaaS事業紹介
参考:矢野経済研究所のデータをもとに作成
Ⅰ. モビリティサービス事業
MaaSを支えるプレーヤーのうち、移動手段等を提供する「モビリティサービス事業者」を取り上げます。
1. シェアード・アクティブ:ユーザーが車両を運転して移動する形態
1.カーシェアリング:必要な期間だけ車を借りることができるサービスです。複数の会員で車両を共有します。
①予約やアプリを通じて車を選択。
②指定された駐車場などの受け渡し場所から車をレンタル。
③利用後はサービス会社の指定する駐車場に返却。(利用開始した駐車場と同じ場合もあれば、違う場所に返却可能の場合もあり)
利用料金には燃料費や保険料が含まれており、必要なときに手軽に車を利用できる便利なシステムです。
2.バイク/マイクロモビリティシェアリング:都市部での短距離移動に適した共有モビリティサービスです。
①指定された駐輪場から車両をレンタル。
②使用後は同じ場所や他の指定された駐輪場に返却。
環境に優しく、渋滞を避けられる効率的な移動手段として注目されています。
3.個人間カーシェアリング:車の所有者が自身の車を他の個人に直接貸し出すサービスです。2018年頃から普及し始めています。
①ドライバーが条件に合う車を探し、予約リクエストを出す。オーナーが承認すると予約完了。
②アプリのチャット機能で詳細を打ち合わせ、決めた場所で車の受け渡しを行い、ドライバーが車を利用。
③利用後、ドライバーがオーナーに車を返却し、互いに評価を行う。
このサービスは、車の所有者に収入機会を提供し、利用者には多様な車種を柔軟に利用できる機会を与えています。
2. シェアード・パッシブ:サービス提供者の運転で移動する形態
1.ライドシェアリング(相乗り型):ドライバーが自分の車で同じ方向に向かう他の人を乗せて移動するサービスです。通常、モバイルアプリやウェブプラットフォームを通じてドライバーと乗客のマッチングが行われます。
①アプリで目的地と希望時間を入力し、ドライバーとマッチング
②指定された乗車場所でドライバーと合流
③目的地に到着後、アプリ内で料金を支払い
*『Uber Pool and Shared Rides』Uber Technologies Inc.
2.オンデマンドバス・シャトル:利用者の需要に応じてルートやスケジュールを動的に調整するバスサービスです。
①アプリで乗車希望地点と目的地を入力して予約
②システムが計算した最適な経路で運行されるバスに乗車
③目的地で降車し、料金を支払い(事前決済の場合もあり)
3.オンデマンドタクシー:スマートフォンアプリを通じてリアルタイムでタクシーの予約や配車を行うサービスです。
①アプリで現在地と目的地を入力し、タクシーを呼び出し
②到着したタクシーに乗車し、目的地へ移動
③目的地到着後、アプリ内で支払いを完了
⇒ カーシェアとライドシェアの違いは?
カーシェアとライドシェアは異なるサービスです。
- カーシェア:車を所有する人々が自分の車を他の会員に貸し出すシステム
- ライドシェア:ドライバーが自身の車で乗客を目的地まで送迎するサービス
【日本国内ライドシェア解禁の流れ】
日本では長年ライドシェアが「白タク」として禁止されており、代替として自家用有償旅客運送制度が運用されていました。ですが2023年にタクシー供給不足を背景にライドシェア議論が再燃し、2024年4月から「自家用車活用事業」として、タクシー事業者管理下限定かつ一部地域のみで開始されました。
このような流れで日本国内でのライドシェアが解禁されましたが、全面解禁に向けては政権内の意見対立などにより議論が停滞している状況です。
Ⅱ. MaaSオペレーター
MaaSを担うサービスにおいて、サービスと人々を繋ぐプラットフォームとアプリが必要不可欠です。それらを提供するプレーヤーは「MaaSオペレーター」と呼ばれます。彼らが提供するアプリを利用することで、ユーザーは簡単に移動計画を立て、シームレスな移動体験を享受できます。
MaaSプラットフォーム:複数の移動手段を統合し、一元的なサービスとして提供する基盤です。公共交通機関、自家用車、自転車、シェアリングサービスなど、多様な交通オプションを包括します。このプラットフォームは、様々な交通事業者やサービスプロバイダーとの連携を実現し、ユーザーに移動関連情報への容易なアクセスを提供します。さらに、支払い、予約、ルートプランニングなどの機能も統合しています。
MaaSアプリ:上記プラットフォームを活用するためのユーザーインターフェースです。スマートフォンやタブレットにインストールすることで、移動に関する様々なサービスにアクセスできます。使いやすさと直感的な操作を重視し、効率的な移動プランニングと利用をサポートします。
1.プラットフォーム事例:
2. MaaSアプリ事例:
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『MaaS モビリティ―革命の先にある全産業のゲームチェンジ』
- 著者名: 日高洋祐・牧村和彦・井上岳一・井上佳三
- 出版社: 日経BP社
- 出版年: 2018年
♦ 最後に
MaaSにフォーカスを当て、その定義から実際のサービスまで、業界を理解する上で基本的な要項を見てまいりました。日本国内のMaaSもまだまだ発展の余地があり、モビリティサービスの種類の増加や利便性の向上も含め、今後、市場の更なる拡大が見込まれます。それに伴い、人材ニーズも増加していくと予想されます。
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