2022年5月27日 これだけは知っておきたい電気自動車市場の動向
♦ 世界全体でのEV市場
電動化が進む近年ですが、実際に市場としての普及率や産業としての動向はどうなっているでしょうか。海外市場と国内市場の現状からみていきます。EV市場は年々各国で拡大しており、2022 年は2021 年と比較して全体で155%の成長率となり、グローバル全体でのEV販売台数は商用車も含めて1050万台に達しています。
特に中国での成長率は著しく販売台数は前年比82%増し、他国を合計した販売台数を上回りました。特にBYDは3倍以上の185万台を販売し、PHEVの944, 500台を含めると世界販売ランキングで一位となりました。
ヨーロッパでは、2年間にわたり販売台数が急増した後、2021年比でEVはわずか15%増にとどまりました。自動車市場全体の低迷と部品不足が影響し、ウクライナ戦争がさらに深刻化したことが背景にあります。
米国とカナダのEV販売台数は、2022年に前年比8%減となった軽自動車市場全体の低迷にもかかわらず、前年比48%増となりました。
以下のグラフを見ても台数ベースでは、アメリカ、中国、欧州市場で強い完成車メーカーが上位にランクインしています。
グローバル全体での乗用車(普通乗用車、バン、スポーツ用多目的車(SUV)など)における電気自動車の市場規模を示す以下の図を見ると、2020 年に世界的なパンデミックにより従来の自動車の市場を縮小したにもかかわらず、電気自動車市場は過去3年間で特に目覚ましい成長を遂げました。
EUは35年にはエンジン車の販売を事実上禁止する方針も表明済みで、各国が電動化に向けて力を入れています。 電動車普及率では、ノルウェー、スェーデンなど北欧諸国でのEVシェアが高くなってきている一方で、E-mobility指数¹として市場、産業、技術分野をトータルで見ると、中国とドイツは、電動モビリティへの移行を進めている最前線の国と言えます。中国は以下で取り上げる電池開発など電気自動車の技術開発でもリードしており、ドイツは現在の顧客需要で最も高いスコアを獲得しています。
※¹ E-mobility指数は、世界の主要な自動車販売市場の競争力を比較するために、技術、産業、市場の3つの主要指標を使用しています。
参照:EV Volumeをもとに作成
♦ 日本市場のEV動向
はじめに、日本政府が掲げている目標を確認しておきましょう。
目標「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」
2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指し、2035年までの上記の目標を定め電動車が徐々に普及してきています。
2020年時点で日本での電動車の普及比率は39%になりましたが、シェアのほとんどをHVが占めており、グローバル市場のグラフで見ても分かるようにEV市場としては小さく、BEVの割合は0.38%となっています。
EVの普及にはメーカーだけでなくインフラ設備などの環境要因も大きく関わるため、日本での生活のより身近になるためには、コスト競争力¹が強まりインフラ構築も含めて、購入するメリットをより感じられる社会にシフトしていく必要があります。
※¹ コスト競争力=商品・サービスの市場における競争のうち、価格の安さを競うもの。
電動車(電気自動車+燃料電池車)の日本国内販売推移
(参照:日本自動車工業会)
EVが日本市場において、急速に普及していない背景には、様々な要因が挙げられますが、ここではコスト面とインフラ面から要因をみてみます。
◊ コスト
”日産のリーフを例にとっても最低価格は322万で、約110万円の電池を搭載している。日本での国と地方からの補助金60万円を差し引いてもリーフの最低価格は262万円となり、補助金なしのプリウスが242万円で収まることを比較すると販売メーカーとしも消費者側としても、なかなか難しいことが分かります。”
(引用:ナカニシ自動車産業リサーチ)
以上の例からも電池そのもののコストが非常に高く、航続距離¹の問題を解決するためには大量のバッテリーを搭載する必要があります。そのため、バッテリーを含めて、原価が高くビジネスとしては利益率の点から、簡単に電気自動車へフルチェンジとは言えないのが現状です。各メーカーは”何年までに何台投入、何%をEV/FCVに”など徐々にシフトしています。
安全性や性能を落とさずに、バッテリーのコストを下げていけるかという点も普及にあたって注目していくべきポイントです。
※¹ 航続距離=搭載した1回の燃料によって航行を続けることのできる距離。電気自動車では、一回の充電による航続距離が課題となっています。
◊ インフラ構築
インフラ構築もEVの普及には欠かせないポイントです。日本政府は、「2030年までに急速充電器を今の4倍となる3万基を設置すること」を政策に打ち出し、グリーン成長戦略に合わせてインフラ構築の為の取り組みが活発に進んでいます。
ただ課題は未だ多いのが現状です。
2009年度から2020年度の累計で普通充電器 31,329基、急速充電器7,574基、合計38,903基となっている。
但し、充電器の耐用年数は8年程度のため、 現在の稼働基数は上記よりも少ないと推測される。
①急速充電器台数が非常に少ないこと、
②補助金交付台数がここ数年はほぼ横ばいで 推移し普及の頭打ちがみられることがあげられる。
要因としては、
- 急速充電器本体やランニングコスト の価格が高いこと、
- 全体台数は、高速道路SA、自動車ディーラーや商業施設など公共性のある場所へ の設置が一定程度進むなか、足元ではEV普及遅れから全体としては充電器の過剰感が出ていることが原 因として推測される。
(引用:商工金融)
以上のように、充電器の導入コスト(充電スタンドの耐用年数は8-10年)を考えると、EVが充電スタンドと並行して普及し、消費者のEV選択肢を広げメリットを感じられる環境を作ることが採算性を確保する上でも大きな鍵となっています。
♦ 電池の開発は中国・韓国・日本が強い
現在最も普及している電池はリチウムイオン電池ですが、航続距離の課題も含め次世代の電池開発にも各国が力を入れています。
現状の電池市場は、中国のCATLを中心にトップ3のCATL、LG Energy Solution、Panasonicが約70%のマーケットシェアを占めています。
CATL はリチウムイオン電池を、Tesla, Peugeot, Hyundai, Honda, BMW, Toyota, Volkswagen, and Volvoへ提供しており、株式は2020年に160%上昇し、時価総額は約1860億ドルにまで上昇しました。
中国は国のサポートも手厚く、2016年に中国政府はEVメーカーが補助金を受けるには、韓国のサムスンやLGといったグローバルなライバルを除き、厳選された国内サプライヤーのバッテリーを使用しなければならないといったルールなども設けました。このような政策も中国電池メーカーのシェアが高い要因と言えます。
2番目のシェアを誇るLGはJaguar, Audi, Porsche, Ford, and GMへ提供し、3番目のPanasonicはTesla,Toyota が主な提供先となっています。
現在注目されている全固体電池は、リチウムイオン電池と比べ従来と同じ大きさでエネルギー密度が上がるため航続距離が伸びることが期待されており、特許出願件数の約37%を日本企業が占めています。
一方でバイデン大統領は、米国を電気自動車の強国にするための戦略として、バッテリーの国内生産を強化することを掲げています。ヨーロッパ諸国も、中国のバッテリーに数十年依存してきた状況を挽回しようと準備を進めており今後の欧米諸国のスピードアップによる新たなプレイヤーの台頭にも注目です。
♦ 自動車リーディンググループの目標
ここでは各自動車完成車メーカーの電動化に関連した目標を整理していきます。
Daimler
「市場環境が許す限り、10年以内(2030年まで)に完全な電気自動車にする」ダイムラーによると、2025年までに新車販売の50%を完全電気自動車または部分電気自動車にするという目標を達成したいとしています。5年後には、完全な電気自動車を提供する予定です。
(外部リンク:Mercedes Benz)
General Motor
GMは、2025年までに全世界で30車種の電気自動車を導入することを約束し、また2035年までに電気自動車のみを提供し、ディーゼルおよびガソリンエンジンを搭載した自動車、トラック、SUVの生産を終了する計画です。デトロイトの自動車メーカー(クライスラーやフォードなど)が2040年までに全世界の製品および事業においてカーボンニュートラルになるという大きな計画の一部でもあります。
(外部リンク:CNBC)
Honda
「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%」、そして「2040年には、グローバルで100%」を目指します。
2030年までに、電動化・ソフトウェア領域の研究開発と投資で約5兆円を投じると発表しました。また、GMと新型EV開発で連携し、新しい共同プラットフォームをベースに低価格の電気自動車シリーズを開発し、2027年から数百万台を生産する可能性があると発表しました。
Hyundai
”電化に焦点を当てた160億ドル以上の投資を行うとともに、2030年までに世界のEV市場の7%を獲得する”
また2030年までに約790億円の将来事業への投資を目標としており、そのうち160億ドルを電動化の投資に、100億ドルをソフトウェア機能に投じるとしています。
EV事業で営業利益率10%以上を達成し、BEVの新車種を17車種(Hyundaiで11車種、高級車ブランド「ジェネシス」で6車種)投入することを発表しています。
(外部リンク:Hyundai Newsroom)
Nissan -Renault- Mitsubishi
2030 年までに、35台の電気自動車を展開することを目標に、約2兆円を共同開発へ投資するとしています。電気自動車の普及に対するアライアンスの献身と共に、日産・ルノー・三菱グループは固体電池の開発を推進に取り組んでいます。全固体電池の生産開始時期を2028年と積極的に示しており、日産・ルノー・三菱の電気自動車ポートフォリオにとって大きな飛躍となる可能性があります。
(外部リンク:Nissan Newsroom)
Stellantis
「Dare Forward 2030」を掲げ、2030 の終わりまでに、ヨーロッパでの販売台数の100%、アメリカでの販売台数の50%を純粋なバッテリー電気自動車を目指しています。CEOであるタバラス氏は「2030年までに75車種以上のBEVを市場に投入し、BEVの世界年間販売台数を500万台にする計画です」と述べています。
(外部リンク:Dare Forward 2030)
TOYOTA
2030 年までに30種類の新型車を発売し、EVの年間生産目標を従来の200万台(EVと燃料電池車)から350万台(EVのみ)に引き上げる。
2030年までに二次電池関連に2兆円、車両開発に2兆円の合計4兆円をEV関連に投じるとしています。
(外部リンク:TOYOTAニュースルーム)
Volkswagen
” Roadmap E “2030年までにグループの全車種に電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車種を用意すると発表しました。2030年までに200億ユーロ(2兆6400億円:1ユーロ=132円で換算)を投資することも明らかにしました。この資金で、EVやPHV製造のための工場の改造や、従業員教育、蓄電池技術の研究、充電ステーション整備などに取り組んでいます。
(外部リンク:Volkswagen)
♦ 最後に
電気自動車の市場の動向を、産業や技術面の現状、各関連会社のビジョンと共に見てきました。電動化を各企業が進める中で、現在直面している課題や今後のビジョンを整理できたかと思います。現在の課題をどう解決するにあたって、どのような対策を各メーカーが取っていくか、課題へのソリューション提供をする新興企業がでてくるなども今後の見どころです。
現在の中途採用では業界の垣根を越えて、企業を選ぶことも一般的になってきました。モビリティ業界のトレンドとして面接に行く前に電動化に際しての、基礎知識を持っておくと、企業へのアピールにも繋がります。
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日本市場における外資自動車(輸入車)メーカーのマーケットシェアについてまとめています。また海外市場と比較した海外ブランド割合でも興味深いデータが出ています。