2023年10月17日 これだけは知っておきたい電気自動車市場の動向
2. 世界全体でのEV市場
電動化が進む近年ですが、実際に市場としての普及率や産業としての動向はどうなっているでしょうか。海外市場と国内市場の現状からみていきます。EV市場は年々各国で拡大しており、2022 年は2021 年と比較して全体で155%の成長率となり、グローバル全体でのEV販売台数は商用車も含めて1050万台に達しています。2022 年に販売された全新車のうち電気自動車は合計 14% となり、2021 年の約 9%、2020 年の 5% 未満から増加しました。
特に中国での成長率は著しく販売台数は前年比82%増し、世界の電気自動車販売の約60%を占めています。中国では、すでに2025年までの新エネルギー車販売台数目標を超えています。特にBYDは3倍以上の185万台を販売し、PHEVの944, 500台を含めると世界販売ランキングで一位となりました。
ヨーロッパでは、2年間にわたり販売台数が急増した後、2021年比でEVは15%増となり270万台に達しました。2017年から2019年の平均年間成長率は40%でしたが、2021年から2022年は65%の成長率となりました。
米国とカナダのEV販売台数は、2022年に前年比8%減となった軽自動車市場全体の低迷にもかかわらず、前年比48%増となりました。
また、新興電気自動車(EV)市場においても電気自動車の販売台数は成長しています。2022年は、インド、タイ、インドネシアにおいて販売台数は2021年に比べて3倍以上増加し、8万台に達しました。去年、インドでは政府の32億ドルの奨励プログラムの支援を受けて、総額83億ドルの投資が集められ、EVおよび部品の製造が強化されています。タイとインドネシアも政策支援制度を強化しており、EVの普及促進を目指す他の新興市場国に貴重な経験を提供する可能性があります。
電動車(電気自動車+燃料電池車)のグローバル市場シェア
以下のグラフを見ても台数ベースでは、アメリカ、中国、欧州市場で強い完成車メーカーが上位にランクインしています。注目すべき点は、BYDの急成長です。BEVでは、TESLAが首位を独占していますが、PHEVを含めた電気自動車の販売台数としては2021年にリードしていたTeslaを抜き、販売台数一位に輝いています。2023年には、日本市場にも進出しディーラーネットワーク網を広げています。
電動車(電気自動車+燃料電池車)のメーカー別販売台数シェア
3. 日本市場のEV動向
はじめに、日本政府が掲げている目標を確認しておきましょう。
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- 2035年 新車販売で電動車100%を実現する
- 2050年 自動車の生産、利用、廃棄を通じたCO₂ゼロを目指す
2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指し、2035年までの上記の目標を定め電動車が徐々に普及してきています。
2022年時点で日本での電動車の普及比率は49%になりましたが、いまだシェアのほとんどをHVが占めています。世界で注目されている電気自動車いわゆるBEVの販売台数がようやく伸び始めています。
上記で説明したようにBEVとPHEVに焦点を充てて他国の市場と比較すると、日本市場はEV市場としては非常に小さく、BEVの国内総販売台数に対する割合は3%となっています。
EVの普及にはメーカーだけでなくインフラ設備などの環境要因も大きく関わるため、日本での生活のより身近になるためには、コスト競争力¹が強まりインフラ構築も含めて、購入するメリットをより感じられる社会にシフトしていく必要があります。
※¹ コスト競争力=商品・サービスの市場における競争のうち、価格の安さを競うもの。
電動車(電気自動車+燃料電池車)の日本国内販売推移
(参照:日本自動車工業会)
EVが日本市場において、急速に普及していない背景には、様々な要因が挙げられますが、ここではコスト面とインフラ面から要因をみてみます。
”日産のリーフを例にとっても最低価格は322万で、約110万円の電池を搭載している。日本での国と地方からの補助金60万円を差し引いてもリーフの最低価格は262万円となり、補助金なしのプリウスが242万円で収まることを比較すると販売メーカーとしも消費者側としても、なかなか難しいことが分かります。”
(引用:ナカニシ自動車産業リサーチ)
一方でBYDが国内で販売を始めた“ドルフィン”のメーカー希望小売価格 (消費税込)は363万円から、国の補助金(65万円)を活用すると298万円、地方自治体の補助(最大東京で60万円)も活用できる場合、さらに低価格でEVが手に入ります。
BEVの各メーカーが取り組む課題としては、電池そのもののコストが非常に高く、航続距離¹の問題を解決するためには大量のバッテリーを搭載する必要があります。そのため、バッテリーを含めて、原価が高くビジネスとしては利益率の点から苦戦している現状があります。
世界シェアトップを獲得しているTeslaやBYDは、この課題に対しての長年取り組みが進んでいました。Teslaは、製造工程においてギガキャスティング技術を早期から取り入れるなどして価格を抑えています。また、急成長中のBYDの祖業はバッテリー製造ということもあり、『ブレードバッテリー』という内製電池が低コストでの車両開発を実現している要因の一つです。この技術は、テスラにも提供しておりBYDは完成車の販売だけでなくバッテリービジネスにおいても非常に強いことが分かります。
日系メーカーにおいても、トヨタはBYDとの合弁会社のCTO(最高技術責任者)としてBEV協業開発に携わった経験者を2023年5月に新設した『BEVファクトリー』のプレジデントに登用し、ギガキャスティングの手法も取り入れています。ホンダもゼネラルモーターと電池や車台を共通化したEV開発を進め、日産は部品の共用化を戦略的に進めコスト競争力アップに取り組んでいます。
安全性や性能を落とさずに、バッテリーを含めた製造コストを下げていけるかという点が普及にあたって注目していくべきポイントになります。
※¹ 航続距離=搭載した1回の燃料によって航行を続けることのできる距離。電気自動車では、一回の充電による航続距離が課題となっています。
インフラ構築もEVの普及には欠かせないポイントです。日本政府は、2030年までに「公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置」という目標を打ち出し、グリーン成長戦略に合わせてインフラ構築の為の取り組みが活発に進んでいます。2022年時点では、約4万基が設置されていますが目標達成には、1年1.3万基増のペースが必要です。
2009年度から2022年度の累計で普通充電器 34,239基、急速充電器8,505基、合計42,744基となっている。
但し、充電器の耐用年数は8年程度のため、 現在の稼働基数は上記よりも少ないと推測される。
- ①急速充電器台数が非常に少ないこと、
- ②補助金交付台数がここ数年はほぼ横ばい
で 推移し普及の頭打ちがみられることがあげられる。
要因としては、
- 急速充電器本体やランニングコスト の価格が高いこと、
- 全体台数は、高速道路SA、自動車ディーラーや商業施設など公共性のある場所へ の設置が一定程度進むなか、足元ではEV普及遅れから全体としては充電器の過剰感が出ていることが原 因として推測される。
(引用:商工金融)
以上のように、充電器の導入コスト(充電スタンドの耐用年数は8-10年)を考えると、EVが充電スタンドと並行して普及し、消費者のEV選択肢を広げメリットを感じられる環境を作ることが採算性を確保する上でも大きな鍵となっています。
充電設備補助金交付台数
参照:自動車次世代振興センター『都道府県別 充電設備 補助金交付台数』のデータをもとに作成
4. 日本市場における電動化トレンドの影響とは
帝国バンクのデータによると、「自動車関連」業種では EV 普及により約 5 割の企業がマイナスの影響と回答しており、長年内燃機関車をリードし、サプライチェーン網を築いてきた日本市場では、電動化への対応が急務となっています。
世界をリードするトヨタがようやく2023年5月にBEVファクトリーを新設し、2026年のBEV本格販売に向けて準備を進めており、政府も事業再構築補助金制度にグリーン成長枠としてEV関連事業の展開も含め徐々に支援策も増えてきています。
電動化促進によって、車載半導体、バッテリー、充電インフラなど自動車業界全体も事業転換が求められています。
『自動車関連』業種におけるEV普及による影響
参照:帝国データバンク
5. 車載電池の開発は中国・韓国が強い
現在最も普及している電池はリチウムイオン電池ですが、航続距離の課題も含め次世代の電池開発にも各国が力を入れています。
現状の電池市場は、中国のCATLを中心にLG Energy Solution、BYD、Panasonicが約70%のマーケットシェアを占めています。
CATL は世界シェアを30%以上持ち、Tesla, Peugeot, Hyundai, Honda, BMW, Toyota, Volkswagen, Volvoへ提供しており、株式は2020年に160%上昇し、時価総額は約1860億ドルにまで上昇しました。
中国は国のサポートも手厚く、2016年に中国政府はEVメーカーが補助金を受けるには、韓国のサムスンやLGといったグローバルなライバルを除き、厳選された国内サプライヤーのバッテリーを使用しなければならないといったルールなども設けました。このような政策も中国電池メーカーのシェアが高い要因と言えます。
2番目はBYDとLGがシェアを拡大して、LGは北米の大手自動車メーカーとの取引も多く、韓国で最大の電池メーカーです。BYDは、前述したように祖業はバッテリー製造で自社で一貫して開発・製造しており、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)系の電池を使っている特徴があります。
Panasonicはトヨタ自動車のハイブリッド車向けの車載電池事業を主流にスタートし、現在はテスラ向けの電池が主流となっています。
現在注目されている全固体電池は、リチウムイオン電池と比べ従来と同じ大きさでエネルギー密度が上がるため航続距離が伸びることが期待されており、特許出願件数の約37%を日本企業が占めています。
一方でバイデン大統領は、米国を電気自動車の強国にするための戦略として、バッテリーの国内生産を強化することを掲げています。ヨーロッパ諸国も、中国のバッテリーに数十年依存してきた状況を挽回しようと準備を進めており、スウェーデンのノースボルトの台頭など今後の欧米諸国のスピードアップによる新たなプレイヤーの台頭にも注目です。
6. 自動車リーディンググループの目標
General Motors|ゼネラルモーターズ
GMは、2025年までに年間100万台の生産を目指し、2035年までに電気自動車のみを提供し、ディーゼルおよびガソリンエンジンを搭載した自動車、トラック、SUVの生産を終了する計画です。デトロイトの自動車メーカー(クライスラーやフォードなど)が2040年までに全世界の製品および事業においてカーボンニュートラルになるという大きな計画の一部でもあります。
(外部リンク:CNBC)
Honda|ホンダ
エンジンに強みを持ったホンダが100%電動化に舵を切った目標が話題になりました。
- 2040年までにBEV(電気自動車)とFCEV(燃料電池自動車)の割合をすべての市場で100%にすること。
- 2030年までにグローバルで30車種のEVを展開し、その年間生産量を200万台以上にすること。
- 電動車における投資額は今後10年でおよそ8兆円。
- バッテリー技術に特に焦点を当て、2024年春に430億円を投資して実証ラインを用意し、バッテリーの実用化に向けたスタートを切ること。
(外部リンク:ホンダ)
Stellantis | ステランティス
ヒョンデは2030年までに世界トップ3の電気自動車メーカーの一つになることを目指しています。2030年までに18モデルをラインナップできるよう目指し、200万台のEV販売を目指しています。2022年の世界EV販売ランキングでは6位を獲得し、電動化においても勢いをつけています。
外部リンク:CNBC
Mercedes Benz |メルセデスベンツ
「市場環境が許す限り、10年以内(2030年まで)に完全な電気自動車にする」メルセデスによると、2026年まで(1年延期)に新車販売の50%を完全電気自動車またはPHEVにするという目標を達成したいとしています。
(外部リンク:Mercedes Benz)
Nissan -Renault- Mitsubishi | 日産・ルノー・三菱自動車
2030 年までに、35台の電気自動車を展開することを目標に、約2兆円を共同開発へ投資するとしています。電気自動車の普及に対するアライアンスの献身と共に、日産・ルノー・三菱グループは固体電池の開発を推進に取り組んでいます。全固体電池の生産開始時期を2028年と積極的に示しており、日産・ルノー・三菱の電気自動車ポートフォリオにとって大きな飛躍となる可能性があります。
外部リンク:Nissan Newsroom
Hyundai | ヒョンデ
「Dare Forward 2030」を掲げ、2030 の終わりまでに、ヨーロッパでの販売台数の100%、アメリカでの販売台数の50%を純粋なバッテリー電気自動車を目指しています。CEOであるタバラス氏は「2030年までに75車種以上のBEVを市場に投入し、BEVの世界年間販売台数を500万台にする計画です」と述べています。
外部リンク:Dare Forward 2030
Toyota | トヨタ
トヨタ自動車は2030年までに電動化に向けて350億米ドル(およそ4.8兆円)を投入し、2030年までに350万台のBEVの販売を行い、レクサスと高級ブランドで30種類のBEVをリリースすると発表しました。
外部リンク:TOYOTAニュースルーム
Volkswagen Group | フォルクスワーゲングループ
フォルクスワーゲングループは、すでにヨーロッパで 6 つのプラットフォームにわたって約 20 の BEV モデルを展開しています。現在、約36万台販売しており、欧州でBEV販売の首位を獲得しています。2022年の乗用車全体のBEV販売台数が10%強を占め、急ピッチで電動化を進めています。また、2030年までの目標を以下のように挙げています。
- 欧州で生産される新車1台あたりの二酸化炭素(CO2)排出量を2018年比で40%削減する。
- 欧州市場における自動車販売台数の80%以上をEV車にする。(70%から80%に引き上げ)
- 北米と中国市場では自動車販売台数の50%以上をEV車にする。
♦ 最後に
電気自動車の市場の動向を、産業や技術面の現状、各関連会社のビジョンと共に見てきました。電動化を各企業が進める中で、現在直面している課題や今後のビジョンを整理できたかと思います。現在の課題をどう解決するにあたって、どのような対策を各メーカーが取っていくか、課題へのソリューション提供をする新興企業がでてくるなども今後の見どころです。
現在の中途採用では業界の垣根を越えて、企業を選ぶことも一般的になってきました。モビリティ業界のトレンドとして面接に行く前に電動化に際しての、基礎知識を持っておくと、企業へのアピールにも繋がります。
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各自動車メーカーも急ピッチで電動化を進める中で、新しく電気自動車を製造する新興メーカーが海外市場ではいくつか出てきています。勢いのある新興電気自動車メーカーをいくつかピックアップし特徴を挙げていきます。
併せて読みたい⇒「外資自動車メーカーの市場シェアを探る」
日本市場における外資自動車(輸入車)メーカーのマーケットシェアについてまとめています。また海外市場と比較した海外ブランド割合でも興味深いデータが出ています。