2024年8月29日 【トレンド】EV価格低下のワケ|BYD・日産はいくら?補助金制度もまとめて市場動向を探る
こちらの記事では、EV(電気自動車)市場を「車両価格」をテーマに掘り下げていきます。
ガソリン車と比べて高価なイメージのあるEVですが、近年、様々な理由から価格の低下が実現されてきました。その背景、実態、そして今後の更なるEV普及の手がかりとなる要因について探ります。最新のEV事情や今後の業界トレンドを把握する手助けになれば幸いです。
近年、電気自動車(EV)の価格が急速に低下しています。この背景には、技術的進化と市場競争の激化という2つの大きな要因があります。
技術的進化:バッテリーコストの低減と新素材の使用
EVの価格低下を牽引しているのは、バッテリー技術の進歩です。特に注目されているのが、LFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリーです。従来のEVバッテリーの主流であったNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーにうって変わり、生産コストの低下を実現させました。特に2020年に中国のBYDが開発した「ブレードバッテリー」は、高エネルギー密度を実現し、従来のLFPバッテリーが抱えていた航続距離の課題を克服しました。
このような技術課題の克服により、バッテリーコストは着実に低下しています。BloombergNEF(BNEF)の調査によると、2023年のバッテリー価格は前年比14%下落し、過去最低の139ドル/kWhとなりました。EV用バッテリーパックに限れば、さらに低い128ドル/kWhを記録しています。
更には、トヨタや日産が全固体電池の量産化を進めるなど、バッテリー性能の向上も進んでいます。これにより、EVの航続距離延長や急速充電への対応力向上が期待されています。
今後も続く技術革新により、EVの性能向上とコスト削減が同時並行で進んでいくことが予測されます。
市場の価格競争:新規参入企業と競争の激化
EV市場への新規参入と競争激化も、価格低下を後押ししています。例えば、BYDは低コストで高性能なEVの開発に成功し、2023年第4四半期にはテスラを抜いて販売台数首位を獲得しました。先述のバッテリー開発において、BYDに触発され、テスラをはじめとする他のメーカーも技術革新に力を注いでいます。
日本市場においても、BYDが2023年9月に発売したコンパクトEV「DOLPHIN(ドルフィン)」は、363万円〜という低価格*で注目を集めています。国外では、2024年3月に大手家電メーカーXiaomiがEV市場に参入し、高性能かつ低価格モデル「SU7」で業界を圧巻しました。
各自動車メーカーがEV開発を推進し、車種が急増していることも、価格競争を促進しています。
*2024年6月現在。
メリット:消費者の負担軽減と普及促進
EV価格の低下は、消費者にとって大きなメリットをもたらします。BNEFの予測によれば、早ければ2025年にEVの価格がガソリン車を下回る可能性があります。消費者にとってリーズナブルな価格のEVが増えることで、購入が後押しされ、EVの更なる普及が期待されます。
実際に、2023年のデータによればEV販売台数はさらに増加し、1360万台に達しました。この数字は2022年に比べて35%の成長を示しています。日本国内でも市場拡大は進んでおり、2023年に国内で販売されたEV(BEV)販売台数は前年比50%増の約8万台となり、PHEVと合算すると約14万台と、過去最高を記録しました。
2030年にはEVが世界新車販売の3割を超えるのではないかという見方も現れています。*このような流れを、EV価格の低下が更に後押しする流れとなることが望ましいです。
*インタビュー:EVは30年に新車の3割超へ、日本勢も競争力強化を=テラチャージ社長|Reuters
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デメリット:メーカーの収益圧迫と中古車市場への影響
メーカー努力によって低価格且つ高性能のバッテリーが開発されているとはいえ、バッテリー価格の変動は必ずしも単純な下降線をたどるわけではありません。投入費用や市場状況により、価格が一時的に高くなることがあります。完成車メーカーが製品価格を抑えるためにサプライヤー企業を逼迫してしまうことは無いか、注意深く見守る必要があります。
また、EV価格の急速な低下は中古車事業に深刻な影響を与えています。現在市場に出回っている中古車に加えて、メーカーによる価格競争が重なり、中古EVの価値が内燃機関車より速く下落しているという現状があります。実際に、2023年10月の時点でそれまでの一年間での中古車の価格下落率は、市場全体では5%に留まったものの、中古EV価格は約30%の下落を辿ったといいます。
中古EVに関しては、バッテリーの品質評価方法が確立されていなど、業界全体が中古EVの取り扱いを決めかねており、中古EV市場が発展していないことなども挙げられます。いずれにせよ、中古EV価格の大幅な下落は業界全体の収益構造を揺るがしかねません。
日本国内のEV市場では、特に軽EVの登場が注目されています。例えば、以下の2車種が人気です:
- 日産「サクラ」:259万9300円〜
- 三菱「eKクロスEV」:256万8500円〜
これらの軽EVは、バッテリー容量20kWh、航続距離180kmと、日常使用には十分な性能を持っています。
日産 「サクラ」
また、外資系ブランドの車種では、下記が最安モデルとされています。
- BYD「DOLPHIN スタンダードモデル」:363万円〜
- Hyundai「KONA Casual」:399万円〜
また、日本未発売で今後の参入が期待されるモデルとして、
- BYD「シーガル」想定150万円~
- Hyundai「インスター」想定338万円未満
- Xiaomi「SU7」想定452万円~
EV購入の際に、更に選択肢が増えることが期待されます。
EV購入に関する補助金と税制優遇措置
日本政府や地方自治体は、それぞれEV普及を促進するための支援策を実施しています。
◇補助金制度の背景
一般社団法人次世代自動車振興センターによると、補助金の目的は「クリーンエネルギー自動車(CEV)の利用によって、地球温暖化や大気汚染の原因となる自動車の有害な排出ガスの排出量を低減すること」とされています。
一台のCEV、一度の利用では有害ガスの削減にはさして繋がりませんが、多くの人々がCEVを利用することでこのような目的は達成されます。要するに、この補助金制度の意義は、購入価格を引き下げることで消費者の購入意欲を高め、EV(電気自動車)のさらなる普及を促進することにあると言えます。
◇政府の支援策:補助金、税制優遇
国が交付する補助金は「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」と呼ばれ、2024年度の国のEV補助金では、普通車EVは最大85万円、軽EV・PHEV(プラグインハイブリッド車)は最大55万円、FCV(燃料電池車)は最大255万円の補助が受けられます。
注意点としては、クリーンディーゼル車やHEV(ハイブリッド車)には適用されないことです。また、電動ミニカーや原付等、四輪車以外のEV車両にも補助が受けられるものがありますので、購入の際は適宜確認が必要となります。
※2024年4月1日以降登録・届出分。
参照:一般社団法人次世代自動車振興センター、ガリバーを基に作成
また、現在、EVを購入する際には複数の税制優遇を受けることができ、補助金に加えて更に購入負担を軽減する要素となっています。具体的には、自動車税・軽自動車税に対する「グリーン化特例」、自動車重量税を対象とする「エコカー減税」、そして「環境性能割」という3つの主要な優遇措置があります。
これらの優遇措置は、それぞれ2025年度末から2026年4月末までの期間で適用されることが決まっているため、EV購入を考えている消費者にとっては、この機会を逃さないことが重要です。
参照:ビーワイディージャパンを基に作成
◇地域別の特典:地域独自のインセンティブ
国の補助金に加えて、地方自治体からの補助金もあります。地域や条件によっては、EV購入時に100万円以上の補助を受けられる場合もあります。
詳しくは全国の地方自治体の補助制度・融資制度・税制特例措置にてご確認いただけます。
技術の進化と市場動向
EVの技術は日々進化しています。特に注目されているのが「ギガキャスティング」と呼ばれる生産技術です。
最新の自動車製造の大型鋳造技術で、多数の部品で構成されていた車体の大部分を1つのアルミニウム部品として成形します。
米国のテスラはすでにこの技術を主力EV「モデルY」に導入し、171個の鉄板部品を2個の巨大アルミ部品に置き換えました。ギガキャスティングにより、製造工程の簡略化、部品点数の削減、車体の軽量化が実現し、自動車産業に大きな変革をもたらしています。この技術の普及は、自動車部品サプライチェーンにも影響を与えています。
トヨタ自動車が次世代EVにおける車体の前部と後部に使用する方針です。これにより、2027年までにEVがガソリン車よりも安く生産できるようになると予測されています。
また、バッテリー技術の進化も続いています。長寿命バッテリーの開発や、全固体電池の実用化など、さまざまな技術革新が期待されています。
市場成長の見込み/行政を介した取り組み
補助金を始めとした国や行政によるEV普及促進活動によって、EV市場は今後も成長が見込まれています。
また、モビリティサービスにEVを起用することで、EVの利用・普及を促す流れもあります。以下は、自動車メーカーと地方自治体の協働によるEVの活用施策です。
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4. 最後に
EVの価格低下と技術進化は、自動車産業に大きな変革をもたらしています。今後も継続的な技術革新と市場競争により、EVがより身近な存在となることが期待されます。今後もEVに関する最新情報を継続的に追い、トレンドにキャッチアップしていきましょう。
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