面接前に抑えておきたいMaaS市場動向

MaaS

MaaS(Mobility as a Service)は、人やモノの移動ニーズに応えるため、車やバス、鉄道など複数の移動サービスを最適に組み合わせ、検索・予約・決済等を一括で行い、利用者に提供するサービスです。これにより、移動の利便性が向上し、地域の活性化や課題の解決につながることが期待されており、近年注目を集めています。

この記事では、特にカーシェアと配車サービスを中心に、その市場動向を探っていきたいと思います。MaaSは、移動に関わる社会的な要素と密接に結びついており、様々な視点からその開発が進んでいます。本稿では、世界的なMaaS市場の動向とともに、特に日本国内での市場展望についてもまとめます。自動車業界で初めて働く方や、MaaSに関連する面接を控えている方にとって、お役立てできれば幸いです。

1.MaaS市場が拡大する背景

MaaS市場の拡大の背景には、大きく分けて社会的要因と技術的要因に分けられます。

社会的要因

1.環境意識の高まり:持続可能な交通手段への需要が増加し、MaaSはエコフレンドリーな移動方法を提供することで環境への負荷を軽減するため注目されています。

2.交通渋滞と都市化の増加:交通渋滞や都市の人口密度の増加により、効率的な移動手段が模索されています。またスマートシティの実現にあたってもMaaSは普及に取り組まれています

3.シェアリングエコノミーの成長:カーシェアリングやバイクシェアリングなどのシェアリングエコノミーの成長が見られます。

4.人口の高齢化:地方では高齢化が進み、移動手段は非常に重要な課題となっており、MaaSは高齢者向けのアクセシビリティや安全性の向上として注目されています。

技術的要因

1.スマートフォンとインターネットの普及:技術の進歩により、スマートフォンやインターネットの普及率が高まり、MaaSの利便性やアクセス性が向上したことも要因の一つです。

2.デジタル決済の普及:電子決済の普及により、MaaSは利用者に便利な支払い方法を提供し、無人での決済も実現し利便性が高まりました。

2.世界と日本国内でのMaaS 市場動向

世界中の多くの都市で、上記に挙げた背景より、MaaS(Mobility as a Service)の導入が進んでいます。まずは、海外と国内での市場動向を見ていきましょう。

♦世界全体

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、モビリティサービス市場は大きな打撃を受け国民の移動がほぼゼロになったことで、経済は急降下しました。その一方で、非接触決済や接触追跡のためのMaaSソリューションの展開は加速したことでチャンスをもたらしています。アメリカの調査会社のデータによると、2023年のモビリティ市場規模は727.7億米ドルであり、2028年までに1兆407億米ドルに成長すると予測されています。2023年から2028年中の年平均成長率(CAGR)は7.43%と予想されています。MaaSの最大市場としては、北米地域で、中国、インドをはじめとしてアジア地域でのMaaS市場の急成長が見られます。

MaaS市場地域別成長率

参考:Mordor Intelligenceのデータをもとに作成

中国市場

中国は近年、MaaSプロジェクトのテストと開発に力を入れています。国務院、交通部、省・市政府(北京、上海、江蘇、広東)など多くの政府部門は、2021年から2025年の第14次5カ年計画、あるいは2035年の長期計画でMaaS戦略やパイロット版を開発することを強調しています。

インド市場

インドは中国を抜き世界で最も人口の多い国となり、中流階級の多くがキャブやオートリクシャーを通勤に利用しています。公共交通システムは限定的であり、バスや一部の都市でのみのローカル電車やメトロが主な特徴です。そのため、従業員は主に自家用車を通勤の主要な交通手段として使用しています。MaaSは連邦、州、地方政府による議論と政策の取り組みにより、その巨大なポテンシャルが明らかにされています。MaaSはインド全体の消費者に、交通手段を一つの統合サービスとして提供し、柔軟で個人に合わせた移動の組織化を容易に実現できると注目されています。また、インドは自国の技術力と統合されたモビリティサービスのソリューションを活用し、既に成長しているセクターです。

国内(日本)市場

日本国内でもMaaSは拡大しており、政府の取り組みや法律改正も MaaS 市場を形成する上で進められています。政府はMaaSを交通網に組み込む方法を模索する一方で、民間企業でもMaaSプラットフォームやサービスへの投資が盛んに見られます。日本のタクシー会社はアプリ開発などのITプラットフォーム開発企業との協業によって、競争力を維持し、高齢化の進む地方では自動運転バスによる多様な移動手段の拡大が見られます。また、カーシェアや配車サービスにおける今後の伸びは、都市部に限らず拡大しており富士経済の調査によると地方でも配車サービスの需要は2020年から2030年で約5倍増加すると予測されています。

3.MaaS事業紹介

今後様々な形でMaaSは誕生していくことが予想されますが、現時点での様々なMaaSの種類をご紹介します。

参考:矢野経済研究所のデータをもとに作成

Ⅰ.モビリティサービス事業

1. シェアード・アクティブ

シェアードアクティブは利用者自身が車両を運転して移動する形態であり、自転車シェアリングやスクーターシェアリングなど、ユーザーが自ら車両を操作して移動する形態を指します。

1.カーシェアリング:車を必要な期間だけ一時的に借りることができ、複数の会員で車両を共有して利用が可能なサービスです。ユーザーは予約やアプリを通じて車を選び、駐車場などの受け渡し場所から、必要な期間だけ車を利用することができます。利用者は燃料費や保険料などを含んだ利用料金を支払い、必要なときに車を利用することができます。

2.バイクシェアリング:共有自転車サービスであり、都市で利用可能な短距離移動手段の一つです。借りた自転車は利用が終わったら、別の駐輪場に返却が可能です。

3.個人間カーシェアリング:個人が所有する車を他の人に貸し出すサービスであり、車の所有者と利用者が直接取引を行います。2018年頃から普及し、代表的なサービスとしてDeNA SOMPO Mobility 「Anyca」が挙げられます。

3. 個人間カーシェアリング事例:

*『Anyca』株式会社DeNA SOMPO Mobility 

2. シェアード・パッシブ

シェアードパッシブは、他の運転手が提供する車両を利用して移動する形態で、運転や車両の管理に携わる必要はありません。

1.ライドシェアリング(相乗り型):相乗り型のライドシェアは、ドライバーが自分の車に他の人を乗せて同じ方向に向かう際に、その乗車希望者を乗せて移動するサービスです。一般的にはモバイルアプリやウェブプラットフォームを介してドライバーと乗客がマッチングされます。

ただし、日本では自家用車での有償の相乗り行為は、白タクシーや無資格運送とみなされ、道路運送法により違法とされています。

2.オンデマンドバス・シャトル:需要に応じて動態的にルートやスケジュールを調整するバスサービスです。一般的なバスとは異なり、利用者はスマートフォンアプリやウェブプラットフォームを通じてバスの予約や乗車申請を行います。バスは複数の利用者の要求に基づいて最適な経路を計算し、効率的に乗客をピックアップ・送迎します。

3.オンデマンドタクシー:乗客がスマートフォンアプリを通じてタクシーの予約や配車をリアルタイムで行うサービスです。利用者はアプリ上で出発地と目的地を指定し、近くの空車のタクシーを呼び出すことができます。配車アプリはGPS技術を使用して近くのドライバーと乗客をマッチングし、迅速な配車を実現します。日本市場では、「Go Taxi」や「DiDi」などの配車アプリサービスが利用されています。

1.ライドシェアリング事例:

*『Uber Pool and Shared Rides』Uber Technologies Inc.

2. オンデマンドバス事例:

*『オンデマンドバス』Osaka Metro Group

3. オンデマンドタクシー事例:

*『Uber Taxi』 Uber Technologies Inc.

⇒ カーシェアとライドシェアの違いは?

カーシェアとライドシェアの違いは、カーシェア車を所有している人々が車を共有し、カーシェア会員へ車を借し出すサービスです。一方、ライドシェアドライバーが車を運転し、乗客を目的地まで輸送するサービスです。

近年注目されている自動運転技術と結び付けたロボタクシーは、このライドシェアを通じて巨大なMaaS市場を創り出すことが考えられます。ライドシェアには、UberやDiDiなどの営利目的のサービスとソフトバンクの子会社であるBOLDLY茨城県境町で実用化した無料の自動運転バスなど非営利目的のライドシェアに分けられます。

日本国内では、自家用車によるライドシェアは白タク行為として違法ですが同乗者から収受する費用がガソリン代などの移動費用を折半するものであれば合法とされています。実際にnottecoなどの移動費折半型のサービスは展開されています。

Car Share vs Ride Share

3. エアモビリティ

1.空飛ぶクルマ:地上を走行する自動車と同様に道路を利用するだけでなく、垂直離着陸(VTOL)能力を持ち、空中を飛行することができる車両です。これにより、交通渋滞を回避し、効率的に移動することが可能となります。空飛ぶクルマの開発は、都市のモビリティ問題に対する解決策の一つとして注目されており、将来的には都市間の移動やパーソナルな空中移動手段として利用されることが期待されています。

2.ドローン:無人航空機のことであり、リモートコントロールや自律的な制御システムによって操縦されます。ドローンは空中からさまざまな任務を遂行するために使用されます。例えば、物資の輸送や配達、航空写真や映像の撮影、災害時の救助活動などです。ドローンの利用は迅速で効率的なサービス提供を可能にし、特に地理的に困難な地域へのアクセスや急速な物資の配送において重要な役割を果たしています。

4. 配送サービス

効率的なルートプランニング、リアルタイムなトラッキング、顧客とのシームレスなコミュニケーションを利用に配送における様々な場面でMaaSが展開されています。

1.フードデリバリーサービス:コロナ禍を期に利用者が増えた領域で、飲食店の料理や食品を顧客のもとへ配達するサービスで、専用のモバイルアプリやウェブサイトを通じて料理を注文し、配達業者が指定の場所へ食品を届けます。

2.物販配送:オンラインショッピングの普及により、物販商品の配送が重要なMaaSの一環となっています。大手物流企業や配送プロバイダーは、インターネット上での注文を受け、効率的なルートプランニングや配送手段の最適化を行い、商品を顧客に届ける役割を果たしています。

3.クーリエサービス:小口の宅配や急配サービスを提供するクーリエサービスもMaaSの一環となっています。顧客はスマートフォンアプリやウェブサイトを通じて配送をリクエストし、クーリエサービスプロバイダーが最適な車両やルートを選択して配送を行います。

4.医薬品配達:医薬品や医療機器の迅速な配達も重要なMaaSの一つです。特に緊急な医療物資や処方箋の配達は、患者の健康と生命に直結するため、迅速で確実な配送が求められます。

Ⅱ. プラットフォーム&アプリ事業

MaaS事業において、必要不可欠なのがサービスと人々を繋ぐプラットフォームとアプリです。

MaaSプラットフォーム複数の移動手段(公共交通機関、自家用車、自転車、シェアリングサービスなど)を統合し、一つの統一的なサービスとして提供する基盤です。MaaSプラットフォームは、さまざまな交通事業者やサービスプロバイダーとの連携を可能にし、ユーザーが移動に関する情報を簡単にアクセスできるようにします。また、支払いや予約、ルートプランニングなどの機能も提供します。

MaaSアプリMaaSプラットフォームを利用するためのユーザーインターフェースです。ユーザーはMaaSアプリをスマートフォンやタブレットなどのデバイスにインストールし、移動に関する情報の検索、予約、支払いなどを行います。MaaSアプリは、ユーザーにとって使いやすく、直感的なインターフェースを提供し、移動のプランニングや利用の容易さを追求します。

2. MaaSアプリ事例:

*『my route』トヨタファイナンシャルサービス株式会社                                                                   

4.国内におけるMaaS市場予測

はじめに述べた、社会的要因や技術要因を背景にMaaS市場は日本国内でも成長が見込まれています。矢野経済の予測によると日本でのMaaS産業は、2020年の3933億円から2030年では1兆7,188億円まで成長すると予測されています。

2021年の国内MaaS市場は、MaaSプラットフォーム市場とMaaSアプリ市場を合算した結果、12市場計で4,905億9,000万円となります。さらに、2035年には2兆3,608億円に達すると予測されています。

参考:矢野経済研究所のデータをもとに作成

利用者数の点では、2020年から2030年までの10年で約5倍の市場に成長するとの予測がされています。カーシェアや配車サービスの成長は著しくカーシェアは約10倍、配車サービスは約4倍の見込みでレンタカーやシェアサイクルサービスの利用人数も増加することが考えられます。

2030年には、高齢者のスマートフォン利用率も高まりやアプリを活用した様々なサービスが進むことで幅広い世代が様々なMaaSを利用することが考えられます。

MaaS 2030年予測|サービスの延べ利用者数(※コインパーキング利用は除く)

5.MaaS関連の職種によく求められる経験・スキル

転職してMaaS関連の職種に就くために、企業からよく求められている経験、スキルについて上記で述べたサービスの事業会社とプラットフォーム&アプリ開発会社の二つの点からみていきましょう。

【モビリティサービスを提供する事業会社】

• モビリティサービスの企画・開発・運営:

モビリティサービスの企画や運営、ビジネスモデルの構築に関する経験が求められます。新たなサービスや製品のアイデアを考え、市場の需要や競合状況を分析し、戦略的な計画を立てる能力が必要です。モビリティサービスのシステムやプロセスを理解し、顧客ニーズに合わせたサービスを提供するための能力が求められます。また、企画にあたって、国の交通・輸送業験における知識が重要です。交通インフラや法規制、安全性の考慮など、業界の特性を理解し、サービスの展開や運営に反映させる能力が求められます。

• パートナーシップの構築と管理界における知識や経験:

モビリティパートナーとの関係構築や契約交渉の経験が求められます。戦略的なパートナーシップを築き、長期的なビジネス関係を維持・発展させる能力が必要です。民間企業に留まらず、政府の官公庁や地方自治体の交通局や地域振興部門などとの連携も非常に重要です。スムーズなコミュニケーションやリレーションシップの構築、共同作業の調整など、協力関係を確立し、プロジェクトの目標を達成する能力が求められます。

• ユーザーエクスペリエンス(UX)の設計と改善:

サービス事業会社においては、実際にサービスを体験してみてどうか、顧客視点での業務進行が非常に重要です。顧客のニーズや行動パターンを理解し、顧客中心のサービス設計を行う能力が必要です。また、サービス提供は対人ではなくアプリ等を通じてのサービス提供が基本であるため、サイトマップ設計やUXデザインやUIデザインのスキルがあると良いでしょう。使いやすいインターフェースやサービスの流れ、視覚的なデザインを考え、ユーザーが満足する体験を提供する能力が求められます。

【MaaSのプラットフォーム&アプリ事業会社】

よく求められるスキルや経験は以下の通りです。

• ソフトウェア開発とプログラミング:

プラットフォームやアプリの要件を理解し、効果的なソフトウェアを開発するモバイルアプリ開発(iOSやAndroid)やウェブ開発の経験・スキルが必要です。また、バックエンド開発(サーバーサイド)やAPIの設計経験、安定したシステムやデータの連携を実現するための能力があると良いでしょう。適切な言語やフレームワークを選択し、効率的な開発を行う能力が求められ、中でもプログラミング言語はJava、Python、Flutter、Swiftなどがよく見受けられます。

• データ分析と予測モデリング:

ビッグデータの解析やデータマイニングの経験、収集したデータを分析し、洞察を得る能力が必要です。将来の需要予測や最適化のためのモデルを構築するため、予測モデリングや機械学習アルゴリズムの知識が求められます。データ可視化ツールや分析ツール(R、Python、Tableauなど)を用いて、データを視覚化し、洞察をわかりやすく伝える必要があります。

• セキュリティとプライバシーの保護:

MaaSでは、ユーザーの大量の個人データを取り扱うためプラットフォームやアプリの安全性を確保し、ユーザーのデータやプライバシーを保護するソフトウェアセキュリティや情報セキュリティの知識は非常に重要です。また、情報セキュリティにあたって、データプライバシーとコンプライアンスの理解も必要になります。関連する法規制や規制要件を遵守し、適切なデータ管理を実施し、脆弱性の評価やセキュリティ対策の実施など、セキュリティリスクを最小化する必要があります。

6.最後に

MaaS市場は、人口の高齢化や都市部の交通渋滞などの社会的要因と、自動運転やIoTなどの技術的要因により拡大しています。世界では、中国や米国がMaaS市場をリードしており、日本でもMaaS事業に参入する企業が増えています。MaaSの種類は、タクシー配車サービスやレンタカーシェアリングなどさまざまです。今後、自動運転車やエアモビリティなどの技術が進歩すれば、MaaS市場はさらに拡大し、人材ニーズも増加していくと予想されます。

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監修:ターンポイントコンサルティングメディアチーム(担当:近藤 真太朗)
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