2023年1月13日 バッテリー交換技術の動向 | 二輪・四輪メーカーのバッテリースワッピングに迫る
♦ 日本市場における二輪メーカーバッテリーシェアリングサービス
Gachaco|ENEOS x二輪メーカー
日本では、ENEOSグループを中心にバッテリーシェアリングサービスとインフラ構築を手掛けるGachacoが2022年3月に設立されました。
出資比率はENEOS社が51%、ホンダ社が34%、カワサキ社、スズキ社、ヤマハ発動機社が5%ずつとなっています。バッテリー仕様の共通化を進める二輪4社(ホンダ・川崎・スズキ・ヤマハ)の開発力を活用し、全国約12,000箇所のサービスステーションと特約店ネットワークの強みを活用しインフラ整備に取り組んでいます。
(参照:Gachaco Website)
♦ BAASとは?
「バッテリー・アズ・ア・サービス(BaaS)」とは、バッテリーを購入するのではなくレンタルすることで、初期費用を抑えることができます。消耗したバッテリーは専門の自動充電ステーションで数分のうちにフル充電されたバッテリーと交換することができ、空のバッテリーは充電ポートに入れられ、そこで完全に充電された後、別の車両に交換することができます。
♦ 海外二輪メーカーのバッテリースワッピング例
ここでは、海外の二輪メーカーでバッテリー交換技術に取り組む企業をいくつか紹介していきます。
1.Gogoro(台湾)
Swap & Go
台湾のスタートアップ企業Gogoroはバッテリー交換技術を進める企業の中でも注目を集めている企業で、台湾国内のみに留まらず、中国、インド、インドネシア、シンガポール、フィリピンなど二輪販売台数の高いアジア諸国ですでに展開を進めています。日本でも、住友商事との戦略的パートナーシップを組み2018年に石垣島でシェアリングサービスを開始しています。
2.KYMCO(台湾)
KYMCO Ionex Fully Explained
台湾のKYMCOは「IONEX Recharge」を導入し、Gogoroとは異なりサービスの一環としてライダーが立ち会うことなくバッテリー交換が可能です。夜間など指定された時間・場所で車両のバッテリー交換を行うことができます。
3.SUN Mobility (India)
SUN Mobility は、日本のEVベンチャーであるTerraMotors社と戦略提携を組みバッテリー交換の開発に取り組んでいます。
参考:TerraMotors<インドにおけるEVインフラへの参入の一環として、電池交換式インフラをもつSUN Mobilityとの戦略的提携を発表>
4.Swobbee(ドイツ)
ベルリンを拠点にマイクロモビリティ車のバッテリー交換の商業化に取り組むスタートアップ企業スウォビーは、Gogoro社をロールモデルにしており、欧州の持続可能エネルギー促進機関であるEIT InnoEnergyが主導する650万ドルの資金を新たに調達しています。
参考:Berlin-based Swobbee wants to bring micromobility battery swapping to Europe
♦ 四輪業界におけるバッテリー交換技術動向
二輪業界では、バッテリーシェアリングにおけるコンソーシアムが設立されるなど各企業が注力している一方で、四輪車業界ではどうでしょうか。
もともとBAASはイスラエルのBetterplace社というスタートアップ企業が取り組んでいました。Better Place社は2000年代半ばにバッテリースワップのアイデアを売り出し、シリコンバレーの喝采を浴びました。創業者のシャイ・アガシのスター性を背景に、同社は9億ドルを調達しましたが、その後、莫大なコストがバッテリー保管にかかることもあり倒産に陥りました。500Kドルのバッテリー交換ステーションは結局1台200万ドルかかり、Better Placeが確保したパートナーはルノー1社のみでした。
参考:What is a Battery-as-a-service? |Shoosmiths
また、TESLA社もこのアイデアに着目し、モデルSにおけるバッテリー交換を試みましたが問題が多く徐々にサービスは消えていってしまいました。TESLA Battery Swapping Pilot Progra
一方で、上記の四輪におけるバッテリーシェアリングに向けて、中国では課題解決に向けたサービス展開が進んでいます。
中国のプレミアムEVメーカーのNIOはバッテリー交換をリースプログラムとしてサービスに取り入れています。ベタープレイス社を崩壊させた非常に高価なバッテリーコストの問題においても、リーシングプログラムを導入し月額制で提供しています。電気自動車の価格の大半を占めるバッテリー本体を抜いた車両のみを販売し、高価なバッテリーは購入する必要はありません。その他にもNIOはブランドのファン創造に向けて、オーナー特別のサービスを用意するなど既存の自動車メーカーとの差別化を図りシェア拡大に取り組んでいます。
BAAS(Battery as a service)は中国政府もEVのコスト削減と航続距離向上に向けてサービスの拡大をサポートしています。
1. CATL社のEVOGO
バッテリーシェアで世界1位を誇るCATL社の子会社Contemporary Amperex Energy Service Technology Ltd.(CAES社)はバッテリーブロック、高速バッテリー交換ステーション、アプリを含む革新的なモジュール式バッテリー交換ソリューション「EVOGO」を展開しています。
参考:CATL Launches Battery Swap Solution EVOGO Featuring Modular Battery Swapping
2. NIO x LeasePlan
NIO社はすでに中国国内では、200万代以上のバッテリー交換を完了し、LeasePlan社などと提携し欧州と米国のために準備を進めています。
♦ 標準化でバッテリー交換の普及は加速するのか?
各メーカーのバッテリー規格が統一されていないと、利用者は充電交換のインフラが限られてしまうため、普及に向けて標準化が鍵となっています。
二輪業界では、ホンダ、川崎重工、スズキ、ヤマハ発動機の4社が、バッテリー交換システムの標準化に合意し(リンク)、各社共通で利用できるよう自動車技術開規格(JASO)に準拠した開発が進んでいます。標準化が進めば、充電ドッキングステーションが複数のメーカーで使えるようになり、コストが削減され、ライダーにとってもより魅力的なサービスを提供していくことが可能になります。
一方で四輪の充電インフラ規格の普及状況をみると、2010年に日本が主導してCHAdeMOの世界基準の規格化を進めましたが、2023年1月時点ではCCSやテスラがリードするNSCSなどの規格がグローバルではより広がっており、日本が主導した規格での世界標準化は苦境に陥っています。
そのため、二輪車におけるバッテリー交換においても海外でシェアの高い日本の二輪メーカーにとって国内市場だけでなく海外においても、日本がリードして標準化を進められるかがスピーディーな普及における鍵と言えるでしょう。世界二輪車トップシェアを誇る本田技研の地域別販売を見ても、アジア市場が世界合計のうち約8割近くを占めており、Marklinesのデータからもインド、中国、インドネシア、ベトナムなどアジア市場が最も大きな市場となっています。すでに、同社は着脱式バッテリー「Honda Mobile Power Pack」を活用した実証実験をインド、インドネシア、フィリピンなどで進めており、順調にインフラ構築が進むかに今後注目です。
充電インフラにおける標準化
Teslaが自社規格で標準化を狙う
上記にも述べた日本主導のCHAdeMOですが、各国ではCCS1やNSCCなど様々な規格が広がっており北米市場で急速にシェアを広げているTesla社は自社規格での標準化を狙っています。電化製品のコンセントと同じように今後日本市場と海外で別の規格でシェアが広がる可能性もありますが特に海外でのシェアが高い日本車メーカーは海外市場における充電インフラ動向と合わせて、どう対応していくかが迫られています。
(参照:WSJ)
♦ 最後に
電動化の普及における課題の解決策の一つであるバッテリー交換技術について、普及状況や国内、海外での事例を見てきました。
現状として二輪業界においても、バッテリー交換は初期段階と言えますが今後電動二輪バイクが普及する上で同時並行で進める必要があります。また、標準化における各メーカーの協力体制がどう進むかも注目しておく必要があります。日系メーカーが世界標準を狙いリードできるかが、今後も二輪市場シェアを主導していく上での鍵になるでしょう。
四輪業界のバッテリー交換においては、課題を乗り越えバッテリー交換の展開を狙うメーカーが現れるか、それとも急速充電などのインフラ構築が進められるか。日本での事業展開を広げる上では、電動化をリードする中国や海外での動向からも情報を積極的に収集していく必要があります。
併せて読みたい⇒ 「海外の新興自動車メーカー Part 1 」
各自動車メーカーも急ピッチで電動化を進める中で、新しく電気自動車を製造する新興メーカーが海外市場ではいくつか出てきています。勢いのある新興電気自動車メーカーをいくつかピックアップし特徴を挙げていきます。
併せて読みたい⇒「これだけは知っておきたい電気自動車の市場動向」
電動化に向けた市場の動向、世界と日本での電気自動車の現状や課題などデータをもとにまとめています。