自動車業界 × IT人材動向

日本の基幹産業である自動車業界の現状と直面しているCASE革命を日本自動車工業会(JAMA)などのデータをもとに、雇用・人材の観点と併せてまとめています。業界を跨いで必要とされているIT人材の現状と課題を見ていきましょう

CASE革命と共に、自動車業界において自動運転、コネクティッドサービス、アプリを通じたカーシェアリング、オンライン販売、社内DXなどエンジニアだけでなく事務系職まで幅広い職種においてデジタル人材が必要になってきています。日本市場の現状を理解し、キャリアアップに向けての情報収集にお役立ていただければ幸いです。


♦ 自動車関連産業での雇用・就業人口


2019年における日本での自動車関連の製造品出荷額において、自動車産業は全体の18.6%、機械工業として含めると40.9%にも及びます。

その基幹産業を支える自動車業界関連で働く割合は全6664万人のうち549万人で約8.2%(2020年)となります。

◊ 日本全体でのIT人材人口

一方で現在最もニーズの高いと言われているIT職種で働く人の割合は約90万人約1.3%と言われており、自動車関連業界549万人と比べて、高いニーズがあるにも関わらずいかに少ない割合であるかが分かります。経済産業省のデータによるとIT人材不足は益々深刻化し2030年には59万人程度のIT人材が不足するという推計がでています。 


♦ 生産台数で見る自動車産業の変遷


自動車業界の変遷を生産台数の推移の観点からみると、1970年から1990年の20年間で2.5倍に拡大し、1990年には約1,350万台まで台数を伸ばしました。この時期に自動車が急速に普及し生産台数においては全盛期を迎えました。

その後、金融危機による経済停滞の影響を受けたこともあり、自動車需要が減少していきましたが、2012年から2019年までは900万台を保っていました。 しかし、2020年のパンデミックによる世界的な自動車販売不振で生産台数は800万台まで激減しました。

一方で、政府による購入補助金や各メーカーの電動化によりEVの生産台数益々増加していくとみられます。充電インフラの整備や車両価格が下がり、課題が解決することでEV普及が加速するのか、サブスクやカーシェアリングなど人々の移動を支えるモビリティサービスの環境整備が広がり、車の所有が減っていくのかなど注目どころです。


自動車サプライヤーの動向


自動車部品メーカーにおいても、CASE革命と共に大きな転換期を迎えています。将来的に自動運転車のサービス、スマートシティなど街全体の移動を支えるサービスがより増えていき、ハードウェアとしての車や部品を販売する従来のビジネスモデルからよりテクノロジーへ焦点をあてた事業に各メーカーが力を入れています。(下記表)

求人状況の観点からみると、コネクティッドサービスや自動運転などの先進技術の開発にあたってのセキュリティ領域、EV普及に向けて電池開発やインフラ構築に関する領域は採用においても年々ニーズが増加しています。コスト管理による部署の縮小新規領域における投資人員の再配置など新規事業の強化を加速している企業も少なくありません。

企業が大きな舵取りをしている現状を把握し、雇用のニーズにおけるシフトへも、準備しておく必要があります。

日本だけでなく、もちろん海外でもこのような変化が起こっており、ドイツ最大の労働組合、IGメタルのホフマン会長への日本経済新聞の取材によると、

「2018年以降、ドイツの自動車産業は83万8000人の雇用のうち7%(約6万7000人)を失った。新型コロナウイルスのほか、半導体不足や自動車産業の構造変化など理由はさまざまだ。今後、決定的に重要になるのは自動車メーカーと部品メーカーの両方にとってドイツで価値を創造し続けるための正しい戦略だ。内燃機関車からEVへのパワートレーン(駆動装置)の変化は企業にとっても自動車産業に従事する人々にとっても課題だ」(引用:日本経済新聞

何も対策を講じなければ30年までにドイツで41万人の雇用が失われると試算されています。一方で新しいモビリティと再生可能エネルギーへの意向は新たな雇用をもたらしており需要と供給のギャップが生まれてるとの現状を語っています。(参照:Reuters

  • 外資自動車部品メーカーのCASE 適応

  •  Bosch

    ボッシュはEV用の充電インフラ整備に関わるソリューションを提供したり、電気自動車、燃料電池車のコンポーネンツを開発している。またPACE、「Personalized」「Automated」「Connected」「Electrifiedに向けてマイクロソフト社との協業により車両とクラウドをシームレスに結ぶソフトウエアプラットフォームを構築するなど様々な取り組みが進んでいる。

    (外部サイト:Bosch


     Continental

    ドイツのコンチネンタルはコネクティッド、アシスト、自律走行、ソフトウェア、高性能コンピュータによる新しい車両アーキテクチャ、高成長地域におけるタイヤおよびコンチテック事業、フリートおよび産業顧客向けなどのデジタルソリューションおよびサービスの分野で平均以上の成長に焦点を当てている。

    (外部サイト:Continental


     Hella & Faurecia|Forvia

    HELLAは、エレクトロニクス、照明、ライフサイクルソリューションという3つの事業領域で展開しており、自動車シーティング、インテリア、エレクトロニクスなどで展開するFaureciaとの合併で電子機器やEV化へのシフトに対応しコックピット全体をカバーしていく。

    (外部サイト:Forvia


     Plastic Omnium&AVL 

    燃料システム、燃料タンクを手がけるフランスの大手自動車部品Plastic OmniumはElringKlingerと燃料電池技術で提携し、世界的な水素戦略を進め、AVLとも戦略的水素パートナーシップを結んだ。

    (外部サイト:Plastic Omnium


     Garrett Motion 

    スイスに本社を置く自動車部品メーカーGarrett Motionは、ターボチャージャー、コンプレッサーなどの主力分野からコネクティッドカーに向けたサイバーセキュリティソリューションにも注力。

    (外部サイト:Garrett Motion


     Webasto

    ルーフシステム、冷房ソリューションを手掛けるドイツのべバストは電気自動車用の充電ステーションなど開発製造にも注力。

    (外部サイト : Webasto)


     Magna & LG electronics

    カナダの自動車部品大手マグナ・インターナショナルと韓国LGはLG Magna e-Powertrainの合弁会社を設立し、電動化に向けての電動パワートレインへ注力。

    (外部サイト : Magna International


     ZF

    駆動系、シャシ・テクノロジーやセーフティの分野でリードするドイツのZFは電動パワートレイン・テクノロジー事業部の設立、商用車向け技術を提供するWABCO社との統合や、ソフトウェアソリューションの販売、および新ソフトウェアセンターのローンチなど転換を進める。

    (外部サイト:ZF

電動化にしても、EV一本軸となるかどうかは国や地域によっても異なり、明確には路線が見えていないため、自動車部品メーカーの将来への方向性を業界全体の動向と共に見ていく必要があります。

◊ 新規EVメーカーの台頭によるサプライヤーへの影響は?

SonyAppleなど の自動車業界以外からのEV進出の動きにも注目です。中国やアメリカでも新規EVメーカーが数多く台頭してきていますが、この動きは部品メーカーにとっては明るい兆しではないでしょうか。異業種からの参入企業は、自社で内製するこだわりが既存自動車メーカーと比べると少なく、水平分業¹が進んでいく可能性が高いとみられます。

SonyやAppleにしても、ボッシュやコンチネンタル、ZF、マグナといったメガサプライヤーから、AWS、エレクトロビット、HEREなどの欧州サプライヤーまで、パワートレインなど車両のハードウェア開発に大きく関わっています。そのため、自動車業界で長年培ってきた安全技術をはじめ、車両技術に関わるノウハウは、他業界からの企業が容易にカバーできる範囲ではないため、今後の自動車業界、またモビリティ業界においても重要な役割を担ってきます。

※¹ 水平分業:企業が製品の開発・製造の各段階で外部に発注して製品化すること。 効率化、柔軟化に利点がある。

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IT人材不足の課題


日本におけるIT人材の状況に着目してみていきます。

2020年のIT人材白書によると、企業規模の1000名以下の企業では「大幅にIT人材が不足している」と感じている企業が1001名以上の企業より割合が高く、IT人材をどう充足していくかが企業規模に関わらず大きな課題と言えます。(参照:IT人材白書2020

デジタル人材の不足は、業界に関わらず全業界が直面している日本での課題であり、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力ランキングによると、日本のIT技術(デジタル技術)は2021年で63カ国中28位という結果でした。引用:IMD Digital Competitiveness Ranking

このことから、すでに日本市場ではIT人材が枯渇しており、この課題を解決するにあたって、企業側はIT人材の採用と育成を同時進行で進めていく必要があります。

多くの企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革していくデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しており、大手企業では社内育成や採用への注力が増えてきています。2022年5月に東京ビッグサイトで開かれた第一回デジタル人材育成EXPOでは、デジタル人材の社内育成という課題に注力しているUdemyやModisなどが出展していました。多くの企業が直面している育成領域は今後より発展していくことが予想されます。

また海外からの優秀なIT人材を採用することも課題解決の一つです。言語の壁もありますが、情報処理能力を必須科目として学んでいる海外のIT人材は、優秀な人材も多く、現に外国籍のIT人材を採用する企業も増えてきています。

(引用:IT人材白書2020


IT人材獲得に向けた採用と社内育成


実際に自動車メーカーでも新規テクノロジー開発による人材需要と供給のギャップは大きく、IT人材の採用育成が進んでいます。また従来の自動車会社は自動車業界経験が必須と考えているIT人材も多く、応募への抵抗感を取り払うためには業界経験を問わない点を求人票に記載する必要があります。

また、IT人材を受け入れる上での組織改革、カルチャーまで変化が少しずつ起こってきています。

⋅トヨタ自動車

採用に関して、2022年春から技術職の新卒採用でのソフトウェア人材を2倍にし、中途採用者の割合についても、”現状は年間に入社する約1千人のうち約3割だが、約5割まで段階的に引き上げる。専門性の高い人材を確保するだけでなく、他社で経験を積んだ人材を増やすことで、組織の活性化を図りたい”と社内でのソフトウェア人材を増やす方針です。

(朝日新聞デジタル)

⋅ デンソー

  • 2025年までに、部品技術者1000人をソフトウェアに詳しい技術者に転身させる。日本経済新聞

⋅ 日産自動車

  • 日産は2017年にソフトウェアトレーニングセンター(STC)を設立し、デジタル人材を育成。 

♦ 最後に


従来のモノづくり産業としての自動車業界は、車両を製造・販売するだけでなく、周辺産業の技術革新と新しいサービスと共に幅広い領域でのモビリティ業界として市場が拡大し、シームレスに他業界と繋がる時代へと変化しています。

モビリティサービスや自動運転などの新しい技術開発において、日本国内にIT人材が不足している現状を見ると、国内だけでなく、国外からの優秀な人材を取り入れるとともにデジタル人材育成をより強化していくことが求められています。

IT人材は、自動車業界に限らず全産業において枯渇しており、モビリティ業界を盛り上げていくためにも、またキャリアアップのためにも、業種、職種に関わらず一人一人がデジタル人材を目指し情報収集やオンライン研修など自己啓発に励むことが必要です。

AI/人口知能を使って何ができるのかなど知識が全くなければ業務に活かしていくことはできません。エンジニアだけでなく、事務系職においても日頃からITリテラシーを高める意識をもつことが、今後のキャリアアップの上でも大きな差に繋がります。

時代の変遷に合わせて、一人でも多く技術に関して知見を持ったIT人材へ時代の流れと共に成長していくことが今後の日本市場で必要とされており、市場価値を上げるキーポイントになるでしょう。

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