FlexRayとその特徴

近年、車載用データバスシステムに変化の動きがあります。以前から使用されていた低速のデータバスシステムに変わって、次世代の高速データバスシステムに置き換わりつつあります。ここでは、代表的な高速データバスシステムである「FlexRay」について解説します。

1. FlexRayとは

FlexRayは、自動車業界で使用される高速データバスシステムの一種です。このシステムは、主に自動車の電子制御ユニット(ECU)間でデータを送受信するために使用されます。そして、FlexRayは、高い信頼性とリアルタイム性を提供し、複数の制御ユニットが同時に通信できるように設計されています。

また、FlexRayは、高い帯域幅と汎用性を提供し、複雑な自動車システムにおけるデータ通信ニーズを満たすことができます。このプロトコルは、車載電子システムにおける安全性と信頼性の向上に貢献しており、例えば、ブレーキ制御システムやエンジン制御システムなど、自動車の重要な機能を制御するために使用されます。

♦ FlexRayの特徴

・高速通信

FlexRayは、高速かつリアルタイム性の高いデータ通信を提供できます。これにより、複雑な自動車システムにおいて、多くの制御ユニット間での高速通信が可能となります。

・高信頼性

FlexRayは、高い信頼性を提供し、データの正確性と安全性を確保します。これにより、車両の安全性やパフォーマンスが向上します。

・リアルタイム性

FlexRayはリアルタイム性の要件に応えるために設計されています。これにより、車両の重要な機能、例えばブレーキ制御やステアリング制御など、迅速なデータ通信が可能になります。

・柔軟性

FlexRayは、柔軟な構成を可能にするため、異なるユーザー要件に応じてカスタマイズできます。これにより、さまざまな自動車メーカーが自社の要件に合わせてシステムを調整できます。

・高い帯域幅

FlexRayは、高い帯域幅を提供し、複数のデータフレームを効率的に送受信できます。これにより、複雑な自動車システムにおける大量のデータ処理が可能になります。

これらの特徴により、FlexRayは自動車産業において重要な役割を果たし、高度な安全性とパフォーマンスを提供するための、重要な次世代通信プロトコルとなっています。

2. FlexRay登場の背景

FlexRayが登場した背景はいくつありますが、自動車の高度化に伴ってデータバスの高度化が要求されるようになってきたことが大きな背景です。

♦ 自動車の高度化とデータバスの高度化の要求

FlexRayは、自動車業界における電子制御システムの要件がますます複雑化する中で登場しました。近年、自動車の機能が増加し、安全性と快適性が向上する一方で、その制御に必要なデータ通信の要件も増加しています。これにより、従来の通信プロトコルであるCAN(Controller Area Network)が十分な性能を提供できない場面が出てきました。

また、近年自動車の後述するバイワイヤー(By-Wire)化が進み、ブレーキ制御やステアリング制御、エンジン制御など、即座の反応性が要求される場合に、より高性能なデータ通信プロトコルが必要とされるようになってきました。

このような要件に応えるために、FlexRayが開発されました。FlexRayは、高速かつ信頼性の高いリアルタイム通信を可能にし、複数のECU間でのデータ通信を効率的に行うことができます。そのため、複雑な自動車システムにおける高度な機能の実現を可能にする重要な技術となりました。

♦ バイワイヤー

バイワイヤー(By-Wire)は、自動車制御において機械的なリンケージを介さずに電子制御システムが直接操作を行うシステムを指します。これにより、ブレーキ、ステアリング、スロットルなどの主要な車両コントロールを電子制御によって実現することができます。

従来の車両では、ドライバーが踏んだブレーキペダルの力が直接ブレーキシステムに伝達され、機械的なリンケージ(メカ的なリンク機構)を介して実際のブレーキ操作が行われていました。同様に、ステアリング操作やアクセル操作も機械的なリンケージによって実現されていました。

一方、バイワイヤーシステムでは、これらの操作がセンサーやアクチュエータによって電子的に制御されます。例えば、ブレーキペダルの操作がセンサーによって検知され、制御ユニットがそれを解釈し、適切なアクチュエータを通じて実際のブレーキ操作が行われる仕組みです。同様に、ステアリングやアクセルも同様の原理で操作されます。

そして、バイワイヤーシステムによって、車両の操作がより正確になり、ドライバーと車両の間の接続がよりスムーズになります。また、安全性や信頼性が向上し、車両の重量や構造の効率化にも貢献します。

♦ バイワイヤーとFlexRay

FlexRayの開発の目的の一つは、バイワイヤーシステムにおけるデータ通信の要件を満たすためです。これにより、車両内の複数の制御ユニットが必要なデータをリアルタイムでやり取りできるようになりました。これは自動車メーカーにとって、複雑な制御システムを効率的に実装するための重要な要素となっています。

そしてFlexRayは、電子制御システムにおける高速かつリアルタイムなデータ通信の実現を可能にすることで、バイワイヤーシステムの発展に大きく貢献しています。これにより、自動車メーカーはより安全で高性能な車両を開発し、消費者のニーズに応えることができるようになります。

3. FlexRayと携帯電話の技術

FlexRayは携帯電話の技術が自動車に適用された一例としても考えることができます。

♦ 携帯電話の技術と自動車技術

携帯電話の技術は自動車産業においても広く活用されています。自動車産業では、携帯電話の通信技術やネットワーク技術を応用することで、車両の機能性、安全性、エネルギー効率、そしてエンターテイメント体験を向上させるための様々な革新が行われています。

例えば、車両の通信インフラストラクチャーとして、携帯電話ネットワークが利用されることがあり。車両間通信や車両とインフラストラクチャーとの通信にも、携帯電話の通信プロトコルが活用されています。これにより、交通情報のリアルタイム共有や自動運転車のネットワーク化など、交通システムの効率と安全性が向上する。

また、車載エンターテイメントシステムやインフォテインメントシステムにおいても、携帯電話の技術が活用されています。これにより、車内でのコミュニケーションや情報アクセスが向上し、快適性や利便性が向上します。

さらに、センサーテクノロジーや自動運転技術の発展においても、携帯電話のセンサー技術や通信技術が応用されています。

♦ TDMAとは

ここからは携帯電話の技術の具体例として「TDMA」を見ていきます。

TDMA(Time Division Multiple Access)は、複数のユーザーが同じチャネルを共有するための通信技術の一で、利用可能な時間をスロットと呼ばれる固定された期間に分割し、各ユーザーにそれぞれのスロットを割り当てます。そして、各ユーザーは割り当てられたスロットでのみデータを送受信できます。

TDMAは、携帯電話システムなどで広く使用されています。この技術により、複数のユーザーが同じ周波数帯を使用して通信できるようになります。それぞれのユーザーは異なるタイミングでデータを送信することができ、時間的にスロットが重ならないように調整されています。

TDMAは、帯域幅の効率的な利用を可能にし、複数のユーザーが同じチャネルを共有する際の干渉を減らす効果があります。この技術は、携帯電話や衛星通信など、多くの通信システムで使用されています。

♦ 携帯電話技術の応用としてのFlexRay

FlexRayは、TDMAを採用しており、この技術によって複数のノードが同じ物理的な媒体を使用して通信できるようになっています。FlexRayは、時間を複数のサイクルスロットに分割し、各サイクルスロットにおいて異なる機器やデバイス間で、通信することができます。これにより、複数の機器やデバイスが同じ物理的な媒体を効率的に共有し、リアルタイム性の高いデータ通信を実現しています。

つまり、TDMAを使用することで複数のECUが同じ通信ネットワークを効率的に共有できるようになっています。これにより、複雑な制御システムが正確かつ迅速に通信を行い、車両の安全性や性能を向上させることができます。

つまり、EDAの考え方は自動車の分野でも様々シチュエーションで導入されています。それだけEDAやデータサイエンスの技術が自動車分野で求められているということでもあるのです。

4.  まとめ

以上、次世代の高速データバスシステムであるFlexRayについて説明しました。FlexRayは大変メリットの多い高速データバスシステムです。

FlexRayは近年の自動車の高度化に伴い制定された規格で、自動車用データバスの長い歴史の蓄積をもとにして、さらなる発展を期して定義されています。バイワイヤーのような新しいニーズに対応するために、携帯電話で使用されるTDMAのような異分野の技術も取り入れ、大きく進化した規格です。

そして、これからの自動車用高速データバスシステムのスタンダードになると期待されています。

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筆者:佐藤 文俊 監修:ターンポイントコンサルティングメディアチーム
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